空腹なのと寒いのと、それからどうも自分たちのしたことがあまりいいことでもなかったようだということがようやくわかってきたのか、帰りの道は珍しくさんにんとも神妙に黙りこみがちであった。 二郎君の家の前にきたとき、私は思い切って「この芋は全部うちで買いますからそちらは桔構ですよ。ただしあれだけの量はちょっと食べきれませんのでお芋の方は半分ぐらいは食べてくれませんか。」と言った。 「そんな...」 と、二郎君の母親は娘のように眼を丸くして言った。 「いやいいです。」 「でもそんなことはできません。やっぱりこれは...」 「いや本当にいいです。とにかく今度のことはこちらの気の済むようにさせください。それに今日はもうおそいから...子供たちもおなかがへってますし...」私は必死になって私の提案を押し通した。母子家庭の、おそらくきっともう何年も続いているのだろうそのつつましい生活に対してすこしでも力になれれば、という気負いが私のなかにあった。 その夜おそく帰ってきた妻に私はまたこの事件の一部始終を報告した。「門灯の下にいもの小山があるので不思議に思って入ってきたのだけれどやっぱりそういうことだったのか」と妻は私が思ったほど驚かずにそう言った。 「それで買い取っていくらだったの」 「二万八千円」 「わあ、薩摩芋ばっかり二万八千円か...」 と、つまは自分の鼻のあたまのあたりをごしごしとこすりながらなんだかまたちょっと面白くてしかたがない、といったような顔で言った。 「それで二郎君のとこはまあいろいろと大変だろうからとりあえず金はうちが全部出すということにしといたよ。」