近代科学は、人間が自然を(注1) コントロール するものと考えてきた。そして、対象を自分の脳で理解できる範囲内のものとしてとらえ、相手を完全に動かせると考えた。しかし、工業化を進められるだけ進めた結果、地球の温暖化が進み、 異常 気象が発生するといった事態を、最初から予想していた者はいなかったのである。近年、遺伝子(いでんし)組(く)み換(か)え • 細胞融合(さいぼうゆうごう)などの技術を利用して品種(ひんしゅ)改良(かいりう)が盛んであるが、殺虫性作物(さっちゅうせいさくもつ)を食べた益虫(えきちゅう)が死んだり、除草剤耐性菜種(じょそうざいたいせいなたね)と近隣の雑草が交雑して、除草剤が効かない新種の雑草が生まれたといった報告が(あと)を絶(た)たない。ここでも予期しない事態に遭遇(そうぐう)したのである。 1これらを考えると、環境問題とは、人間が自然をすべて脳に取り込むことができ、コントロールできると考えた結果、起こってきたとみることもできる。それと(注2)裏腹(うらはら)に、自然のシステムはとても大きいから、汚染物質(おせんぶっしつ)を垂(た)れ流しても、「自然に」浄化(じょうか)してくれるだろうという過大な期待もあった。人間は自然を相手にするとき、理解できる部分はコントロールし、理解を超えた部分には目をつぶってきた。 一言 で言うなら、相手に対する謙虚(けんきょ)な姿勢(しせい)がなかったのである。 (注1)コントロール:製御すること。支配すること。 (注2)裏腹(うらはら):反対。 期待に反すること。 問1 1「これらを考えると」とあるが、「これら」とはどんな内容を指しているか。 1 人間は科学によって自然をコントロールできると考えたこと。 2 工業化を進められるだけ進めたこと。 3 遺伝子組み換え • 細胞融合などの技術を利用して品種改良が盛んであること。 4 人が自然をコントロールしようとする試みは常に予想外の事態に直面(ちょくめん)したこと。 問2 筆者は、環境問題はどうして起こったと考えているか。 1 人間に自然に対する過大な期待があったから。 2 人間が科学によって知り得たことは、まだ自然のほんの一部だから。 3 自然を正しく理解することは、人間には不可能だから。 4 人間に自然に対する謙虚な姿勢がなかったから。