その朝も、私は吊り革にもぶらさがれず、車の真ん中で左右(1)から人に押されながら、週刊誌(2)を読んでいた。押し合いへし合いの中で、ニつ折りにした週刊誌のぺージをめくろうとすると、「あ。」という声がする。 声の主(3)、黑い学童(4)服を着た小学生低学年らしい男の子で、私の胸(5)のところに押しつけられている。その子はちょっと、ロをあき、訴(6)えるような目で私を見た。週刊誌の向こう側には、漫画が載っていた。彼は、漫画を読みおわらないうちにページをめくられたのだ。私は漫画を少年(7)に見せるようにしてまたしばらく揺られていた。少年の目が漫画の吹き出しのセルフの部分(8)をゆっくりと追(9)い、声(10)を出して読んでいる。おしまいまで読み終えたところで少年は目を上げてまた私を見た。