手紙というものは、不思議な伝達手段である。 書いている人間の気持ちは必ずといっていいほど文面に出る。心配もしていないのに、心配を押し売りする ( 注 1) ような手紙を書いてはいけない。 そのような気持ちは封 ( 注 2) を開いた瞬間に、真っ先に相手に届いてしまう。それが手紙の一番に恐ろしいところと言えよう。 愛している気持ちは届くかもしれないが、同時にその幼稚さや、愛の浅さや、性格の悪さまでもが相手に届いてしまう。 手紙というものは、人間の心を映す鏡 ( かがみ ) のような存在でもある。 ( 辻仁成『屋』による ) ( 注 1) 心配を押し売りする:ここでは、心配していると思わせる ( 注 2) 封:ここでは、封筒 筆者は手紙をどのようなものだと考えているか。