あすは、わが子の入学試験の発表があるという、その前の晩は、親としての一生の中でも、一番落ち着かなくてつらい晩の一つに違いない。 もう何十年もまえ、ぼくが中学の入学試験を受けたとき、発表の朝、父がこんなことを言った。 「お前、今日落ちていたら、欲しがっていた写真機を買ってやろう。」 ふと思いついたといった調子だったが、それでいて何となく ぎこちなかった (注)。 1 変なこと をいうな、と思った。お父さんは、ぼくが落ちたらいいと思ってるのだろうか、といった気がした。 2 その時の父の気持ち が、しみじみ分かったのは、それから何十年も経って、今度は自分の子が入学試験をうけるようになったときである。 「注」ぎこちない:動作などがなめらかでなく、不自然である。 71.1 変なこととはなにか。