列島の春 日本列島は四季がはっきりしている。そればかりではない。季節ごとの景物の微妙な変化まで感じ取ることができる。小諸の 1しろがねの衾もやがて緑に変わり 、その色を濃くしていくことだろう。変化に富んだ四季折々の景物は、まさに日本列島の風土の豊かさの表れである。万葉人も、この四季の変化をよんでいる。 春は萌え 夏は緑に 紅の まだらに見ゆる 秋の山かも 春に萌え出し、夏に緑を濃くし、秋に紅葉する。季節の移り行きに応じて変化する山肌の色を見逃さなかったのである。 また日本人は、季節の違いによる雨の降り方の微妙な変化を見逃さなかった。春雨・梅雨・夕立・秋雨・時雨・氷雨などという多くの言葉があることが、 2そのこと を物語っている。雨は農耕に必要なものであったから、人々の関心が強く寄せられ、それだけ多くの名称をもつことになったのだろう。 日本人ほど季節の移り行きに敏感な民族も少ないのではないだろうか。四季の変化に富んだ風土の中で暮らしていると、知らず知らずのうちに、季節のきざしをいち早く感じ取ろうとする心が育ってくる。例えば、「春めく」という言葉には、春の気配を全身で受け止めようとする気持ちがこめられている。3 草木の芽吹きを表す言葉が、古くから、「萠ゆ・生ゆ・生ふ・きざす・芽ぐむ」と多彩である のも、春を待つ心の表れであるにちがいない。